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AIは発明者になれない:特許を取れるのは人間だけ?

2025年1月30日、新聞記事で「『AIは特許の発明者』認めず 知財高裁『発明者は人に限られる』」(毎日新聞・菅野蘭・2025-1-30)という記事がありました。
これは知財高裁がAIを発明者として認めない判断をしたという内容のものです。
アメリカに住む原告(出願者)は「ダバス」というAIが「フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置及び方法」というのを発明したとして国際出願していました。
国際出願というのは、特許協力条約(PCT: Patent Cooperation Treaty)に基づいて行われる特許出願の一形態で、一度の出願で複数の加盟国に対して特許の申請ができる手続きのことです。
その際、原告は日本の特許庁に対して提出した書類で、発明者の欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載していましたが、これを特許庁は問題視し特許出願を却下したというのがそもそもの始まりです。
ちなみに、裁判の流れは今のところ下図のように進んでいます。

昨年にもニュースになっていましたが、原告は、AIが発明した技術について特許を受ける権利があると主張し、特許庁長官による出願却下処分の取消しを求めて東京地裁に訴えます。
しかしそこで出た判決というのが先ほども述べた「AIは『発明者』として認められない」というもの。
したがって原告は知的財産権に関する事件を専門的に取り扱う裁判所である知的財産高等裁判所に控訴していました。
しかしそこでも「東京地裁の判決を支持する」として控訴が棄却され、原告の代理人弁護士は「重要な法的・社会的課題のため、最高裁に判断を求めたい」(毎日新聞)としています。
では、そもそも東京地裁はどのような判決を下したのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。

目次

東京地裁の判決「AIは発明者ではない」

原告の主張

  1. AI発明も「発明」に含まれるべき
    • 特許法2条1項の「発明」の定義(「自然法則を利用した技術的思想の創作」)には、自然人が必ずしも関与する必要はない。
    • 特許法上、「発明」は自然人に限定されておらず、AIによる発明も含まれる。
  2. 特許要件を満たせば特許を受ける権利がある
    • 特許法29条に規定される「産業上の利用可能性」「新規性」「進歩性」などの要件を満たせば、AI発明も特許を受ける資格がある。
  3. AI発明の拒否はTRIPS協定違反
    • TRIPS協定27条1項では、特許の対象を「自然人によるもの」に限定しておらず、日本の特許法がAI発明を排除する解釈をとるのは国際的な規定に反する。
  4. 欧州特許庁(EPO)の判断との整合性
    • 欧州特許庁では「発明がどのように生み出されたかは重要でない」とし、AI発明も特許を受けられると解釈できるとした。
  5. 発明者の記載義務はAI発明には適用されない
    • 特許法184条の5第2項で発明者の氏名記載が求められるが、これは自然人の発明を想定したものであり、AI発明には適用されない。
    • AI発明では「発明者」の欄に「該当なし」と記載するか、AIの名称を記載してもよい。
  6. 自然人を発明者とする必要があると、虚偽の申告を助長する
    • AI発明の発明者を無理に自然人にすると、発明者ではない者が発明者として記載される問題が発生する。
    • これにより「冒認出願」(本来の発明者ではない者が特許を申請すること)が増加する可能性がある。

 さて、1項目目の特許法2条1項では、「発明」について「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。まず「自然法則を利用する」とは、物理法則や化学法則など、人間が発見した自然界のルールを基にした技術的な工夫を指します。例えば電池は酸化還元反応で電子を移動させ、電力を生み出しますし、飛行機の翼は空気の流れによって揚力を生み出す「ベルヌーイの定理」を活用することで空を飛ぶように設計されています。このようなものが「発明」にあたるというわけですね。
 そして、「技術的思想の創作」とは、人間が技術として応用できる形に整理したものである必要があるという意味で、単なる発見ではダメだということです。
 「高度のもの」というのは、新規性や進歩性を備えた技術であり、単にアイデアを組み合わせただけだったりとか、すでにある技術を応用しただけのものなどは含まれないという意味です。
 これらを整理すると、特許の要件というのは、新規性・進歩性・産業上の利用可能性の3点が揃っていること、ということができます。
 原告の主張では特許法では「発明」は人間に限定されていないと主張していますが、知財高裁によれば「特許の出願手続きでは、発明者が人であることを前提としている」ということ、「知的財産基本法では、発明は人間の活動で生み出されるものだと定義されている」として、原告の主張を認めていません。
 また、原告は「日本の特許法がAI発明を排除する解釈をとるのは国際的な規定に反する」とも主張していますが、東京地裁はどのような見解を示したのでしょうか。東京地裁の下した判断の全体像を見てみようと思います。

地裁の判断

東京地裁は、原告の主張を退け、特許庁長官の出願却下処分を適法と判断した。

  1. 特許法上の「発明」は自然人によるものに限られる
    • 知的財産基本法2条1項では、「発明」は「人間の創造的活動により生み出されるもの」と規定されている。
    • したがって、日本の特許法において、AIは「発明者」として認められない。
  2. 「発明者」欄には自然人の氏名が必要
    • 特許法184条の5第1項では「発明者の氏名」の記載が義務付けられている。
    • AIは自然人ではないため、AIの名称を記載することは要件を満たさず、出願書類として不備がある。
  3. AI発明を保護する法制度は現時点では未整備
    • AIによる発明が増加する可能性があることは理解されるが、その扱いは立法政策として議論されるべき。
    • 現行法の枠組みでは、AIを発明者と認めることはできず、新たな法律の整備が必要。
  4. 国際的な判断との整合性
    • 各国の判断をみても、多くの国でAIを発明者と認めない判断がなされている(南アフリカを除く)。
    • 欧州特許庁でも、発明者適格は自然人に限られるとした。

 このように、東京地裁では海外でも多くの国がAIを発明者として認めていないことを理由に、国際的な判断とも整合性が取れているとしています。
 米国、英国、欧州、中国、韓国でも「発明者は人に限られる」と判断しています。南アフリカではAIが発明者として認められているとはいっても、どうやらこれは南アフリカ特許庁が審査を行わずに登録したために発生した事故のようなものらしく、南アフリカ政府にまっとうな主張や理由があっての判断ではないようですね(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2024/16345.html)。

ということで、今後もしばらくはAIが発明者になることはなさそうです。

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