アドビが提供する画像編集ソフトウェアのPhotoshopは、生成AIの進化を取り込み、クリエイティブワークフローに革命をもたらす新機能「調和（Harmonize）」をベータ版で導入しました。
この機能は、異なる画像を自然に合成するという、これまでの高度な技術と時間を要した作業を、AIの力で劇的に簡素化したもので、デザイン、マーケティング、デジタルアートの分野に新たな可能性をもたらすと期待されています。
2025年7月29日（現地時間）に発表されたこのアップデートは、画像合成のワークフローを根本から変え、クリエイターがより高度なビジュアル表現を容易に実現できるようになります。
従来、複数の素材を合成して一枚の画像を仕上げるには、切り抜き、位置合わせ、マスク調整、カラー／ライティング補正、シャドウ付与など、多段階の手作業が必要でした。デザイナーやフォトグラファーは、合成の境界を滑らかに見せるためにレイヤーマスクを微調整し、カーブやレベル補正で色味を合わせ、ブラシで影を描き足すなど、細かな修正に多くの時間を割いていました。これらの作業は高い技術を要する一方、煩雑で時間がかかるため、クリエイティブの本質である「表現」よりも「技術作業」にリソースが偏りがちでした。
しかし、この「調和」機能はAdobe Firefly Image Modelを活用した生成AI技術により、合成対象のオブジェクトが背景に自然に溶け込むよう、カラー、ライティング、シャドウ、全体のトーンを自動調整する機能です。ユーザーが別レイヤーに配置したオブジェクトを選択し、ワンクリックで実行するだけで、AIがその周囲の環境を解析。オブジェクトと背景の光源方向や色温度、影の有無まで考慮し、まるで同一シーンの一部であったかのような統一感ある合成画像を瞬時に生成します。
利用方法：ステップバイステップ解説
- Photoshop Beta版を起動 デスクトップ版（Windows/macOS）、Web版、iOS版（早期アクセス）からBetaアプリを起動します。
- オブジェクトを配置 合成したいオブジェクトをドラッグ＆ドロップ、または「ファイル」→「埋め込みを配置」でドキュメント内に配置します。
- 「調和」アイコンをクリック コンテキストタスクバーに表示された「調和」アイコンを選択すると、AIが自動で解析を開始します。
- 生成候補から選択 複数の調整結果がサムネイル表示されるので、最も自然な一枚をクリックして確定します。
- 微調整が必要な場合 必要に応じて不透明度やマスクを調整し、細かなレタッチを加えることで、さらに一歩踏み込んだ合成表現が可能です。
利用シーンとしては次のような場面が考えられます。
- 広告クリエイティブ制作 キャンペーンビジュアルで、プロダクト写真と背景素材を自然に合成し、訴求力の高いビジュアルを短時間で量産可能。
- デジタルアート サイバーパンク風やファンタジー路線など、異なる光源や質感の素材を融合させ、一枚の統一感ある作品として仕上げられる。
- SNSコンテンツ インフルエンサーやマーケターは、スマートフォンで撮影した素材と手軽にストック素材を合成し、統一感のあるブランドルックを実現。
- プロトタイピング 建築CGやインテリアデザインの初期段階で、リアルな合成イメージを即座に作成し、クライアントへのプレゼン資料に活用。
その他の機能も
今回のPhotoshopベータ版のアップデートでは、「調和」機能以外にも注目すべき新機能が複数追加されています。その中でも特にコミュニティからの要望が強かったのが、「生成アップスケール」（Generative Upscale）機能です。
この機能は、低解像度の画像を最大8メガピクセルまで、AIの力で高精細化することを可能にします。これにより、古くから存在する写真や低画質の素材も、最新の印刷やデジタルメディアの要件を満たす高品質な画像へと生まれ変わらせることができます。過去の資産を再活用できるこの機能は、アーカイブ素材の活用や、急なプロジェクトでの素材不足といったシナリオで非常に有効です。
さらに、オブジェクトの削除機能の強化や、複数の生成AIモデルから選択できる「生成AIモデルピッカー」、そして複雑なプロジェクトファイルを整理しやすくする「プロジェクト」機能なども追加されました。これらの新機能は、「調和」機能と相まって、Photoshopを単なる画像編集ツールから、AIを駆使した包括的なビジュアルコンテンツ制作プラットフォームへと進化させる役割を担っています。
現時点でのユーザーからの評価は概ね肯定的であり、「調和」機能がもたらす合成画像のリアリティ向上とワークフローの効率化に期待が寄せられています。しかし、ベータ版であることから、多様な画像やシナリオにおけるパフォーマンスの安定性、そして既存の複雑なワークフローへの統合性については、引き続き慎重な意見も存在します。特に、プロフェッショナルな現場では、出力の予測可能性と品質の安定性が極めて重要となるため、今後の正式版リリースに向けたさらなる改善と調整が期待されます。
こうしたAI機能の登場は、クリエイターが持つアイデアを、技術的な制約から解放し、より直感的かつ創造的に形にできる未来を示唆しています。AIと人間の協調が、これまでの想像を超えた新しいアートやデザインを生み出す可能性を秘めており、Photoshopの新機能はその最前線に位置しています。今後、この「調和」機能がどのように進化し、クリエイティブ業界にどのような変革をもたらしていくのか、その動向から目が離せません。
